家族のことは、冷静にみることができない。それについて考えようとすると、どうしても先に感情的な部分が飛び出してしまう。良い悪いでは切り分けられない、複雑な感情が何重にもなって渦巻いている。

弟が父さんに怒られた。それはもうこっぴどく怒られたらしい。塾が終わって家に帰ると、母さんが近寄ってきてその話をしてくれた。

話がしたくて、夜弟を呼び出して近くのラーメン屋に行った。ここ数年、どうかしたのかというくらい弟は話さなくなった。あんまり話さないものだから、感情がなくなってしまったのかと思っていた。席を並べて、瓶ビールを2人で分ける。ご飯を食べながら、いくつか話を投げかける。弟はそれに答える。そのあまりにかんたんなやり取りにさえ、ぼくは妙な達成感を感じていた。

弟は昔のまんまだった。無邪気な顔でぼくに寄ってくる、昔の弟となんの変わりもなかった。この頃、家族は弟が心を閉ざしているように感じていたが、ほんとうは心を閉ざしていたのはこっちの方だったのかもしれない。急に、謝りたい気持ちで胸がいっぱいになった。

ラーメン屋のテレビから、探偵ナイトスクープが流れていた。ぼくはテレビの方に視線をやったが、心の中はその向こうのどこか遠くの方にいっていた。あぁほんとうに、少しのきっかけで何かが変わるなら、全力でそこに力を向けていきたい。ぼくにはたった一人の弟がいる。そしてその弟と、昔のように話をしている。そのことがやけに嬉しく思えて、スタミナ丼を食べながら涙が止まらなかった。