征矢泰子 / 息子に
かくも容赦なくのっぴきならずひとであることの
あけてもくれてもひとでありつづけることの
そのむごたらしさのまんなかをこそ
おまえは生きよまっすぐに
おまえはねがうな野の花のやすらかさを
ひたすらにあるがままに身をゆだねてつつましく
みちたりてもだえないことをうらやむな
おまえはいつもうえつづけほしがりつづけ
みちたりなさのなかでめぐりあいに生きよ
おまえは閉ざすな
窓という窓戸口という戸口を
そこからとびこんでくる一切のものにめぐりあえるように
小さな一匹のコガネムシとさえ
おまえはめぐりあえ こころのありったけで
汚辱や悪意不運や挫折をこわがるな
めぐりあいのなかでおののきながら
こころは深くなり大きくなるのだ
ああ おまえは生きよ
かくも苛烈なひとのよにおまえをうんだ
わたしのうしろめたさをふみしだいて
ひとであることのまがまがしさをつきぬけて
しんそこいのちのいとおしさにたどりつける日まで